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2019年11月発行

裁判員裁判と裁判官
―裁判員との実質的な協働の実現をめざして―
司法研修所編(司法研究報告書第70輯第1号) ISBN 978-4-86684-030-7
書籍コード 31-18 A4判 188頁 定価 3,850円(本体 3,500)
 裁判員裁判においては,事実の認定,法令の適用及び刑の量定は,裁判官と裁判員の合議(評議)によるとされており(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(以下「裁判員法」という。)6条1項),この評議をいかに進行させるかは裁判員裁判における最も重要かつ難しい課題の一つと思われる。すなわち,裁判官は,法令解釈等を説明すべき場面では,何をどこまで説明すべきか,どのように説明すれば裁判員が理解しやすいかといった問題に直面し,また,裁判員と対等に議論を行う場面においても,裁判官はどのように振る舞えばよいのか,対等とはいえ裁判官が法律専門家として果たすべき役割はないのかといった問題に直面するが,こうした難問を自らの頭で考え,その答えを見つけ出していかなければならない。
 ところが,評議は非公開かつ秘密であり(裁判員法70条1項),個々の裁判官・裁判体による思索の成果や実践的な工夫例が当該裁判体の外部に伝わりにくく,裁判官であっても当該裁判体を構成していない者がそうした成果等を共有することは困難であった。裁判官は,裁判員制度開始前から行われてきた評議に関連するいくつかの研究(例えば,司法研究としては,「難解な法律概念と裁判員裁判」,「裁判員裁判における量刑評議の在り方について」のほか,「裁判員裁判における第一審の判決書及び控訴審の在り方」にも第一審における評議に関する記述がある。)の結果を参照し,さらには司法研修所や各地の裁判所等において行われる協議会・研究会等での議論を踏まえた上で,日々悩み考えながら評議について実践を積み重ねているのが実情であった。
 しかし,裁判官相互あるいは法曹三者が共有すべき評議についての基本的な考え方や評議の在り方があるはずであり,そうした観点から評議の問題に正面から取り組んで研究を行う必要性は高いと考えられた。また,前述した司法研究は,裁判員制度が施行される前や施行後数年の時期にまとめられたものであり,平成21年5月の裁判員制度施行以来,現実に多数の裁判員裁判が実施され,いくつかの重要な最高裁判例も出された現時点において,前記司法研究の成果を実際の評議で実践した結果について実証的に検証することにも意義があると思われた。
 本研究は,以上のような現状認識や問題意識を踏まえ,「裁判員裁判と裁判官―裁判員との実質的な協働の実現をめざして―」という研究題目のもと,裁判官と裁判員との協働の核心部分である評議に主として焦点を当て,可能な限りその実像に迫り,また,課題を明らかにしようと試みたものである。
 本研究においては,まず,評議の中でも課題が多いと思われる,@間接事実を総合して要証事実(犯人性)を認定できるか否かが問題となる事案,A正当防衛の成否が問題となる事案,B責任能力の有無・程度が問題となる事案,及びC量刑が争点となる事案,という4つの類型を取り上げることとし,最高裁判所事務総局刑事局及び司法研修所の協力により,実際の事件の記録及び判決書を取り寄せ,これに即して実際の評議で起こりがちな問題事象を研究員において検討した。しかしながら,当然のことながら記録や判決書からだけでは現実の評議の実情を把握できない。そこで,次に,裁判員裁判を担当した経験のある裁判官を対象として,上記4類型について実際に評議で苦労した点や工夫した点,実践の結果等について守秘義務に反しない範囲で直接ヒアリングを行い,類型ごとに評議の実情とその課題について検討した。その上で,上記4類型に共通する評議の課題を抽出し,裁判官と裁判員の協働の在り方について検討を加えた。本研究の総論で論じている評議における説明事項と協働事項という考え方は,このような課題の抽出を経て,裁判員法に立ち返って検討した際に生まれた問題意識である。本研究では,さらに,このような検討を通じて見えてきた評議についての考え方に基づいて,もう一度類型ごとの具体的な問題状況に立ち戻って再検討を加えた。
 このようなサイクルを通じてできた本研究は,我が国の裁判員裁判における評議の問題を正面から取り上げた初めての司法研究であり,これまで余り知られることのなかった評議の実像と課題をある程度明らかにするとともに,裁判官と裁判員の協働を考えるにあたっての視点を提供するという意味で一定の役割は果たせたのではないかと考えている。また,本研究は裁判官を主たる対象としてはいるが,裁判員裁判に携わる検察官・弁護人も,各々の主張・立証が評議でどのように議論されているかについて大きな関心を有していると思われ(最近の法曹三者による模擬裁判・模擬評議の取組もその表れであろう。),本研究は,検察官・弁護人が,裁判員裁判の公判における主張立証の在り方,更にはその前提となる公判前整理手続における争点及び証拠の整理への臨み方を考える上でも有益な資料となるのではなかろうか。もっとも,評議の対象となる法概念自体がもともと難解である上に,実質的な協働という概念自体の難しさもあって,本研究の分析・検討が未だ十分とは言えないことも承知している。本研究は,前記のとおり,全国で実際に行われた評議の情報を集積したものをベースに,裁判員法が予定しているあるべき裁判員裁判という規範的な観点から分析し,その結果得られた視点で再度各論を検討するというサイクルの中で作成してきたものであり,評議の実情と裁判員法の理想との間を研究員が往復する中での,いわば中間報告である。
 個々の評議も,いわゆるP(計画)D(実行)C(評価)A(改善)サイクルによって継続的に改善されていくべきものであり,裁判官,ひいては法律家全体が,評議について理解を深め,それをもとに,裁判員裁判のより良い実践へとつなげていくことが期待されているといえよう。とりわけ裁判官においては,判決宣告後の記憶が鮮明な時期に,他の構成裁判官と評議を振り返り,そのエッセンスを他の裁判官や法曹三者と共有し,次の評議につなげていくという反省と改善のプロセスを繰り返す必要がある。本研究や法曹三者における議論をベースとした個別事件における実践を踏まえて,裁判官と裁判員の実質的協働についての検討や研究が更に深められ,本研究が乗り越えられていくことを期待したい。本研究の成果が,裁判官と裁判員の実質的協働を実現するための一つの礎となり,ひいては裁判員裁判の在り方を考えてもらうための契機となれば,研究員として望外の喜びである。

(本書「はじめに」より)

目 次 抜 粋

第1 総論
1 実質的協働と裁判官の評議への関わり方
2 説明事項(法令及びその解釈に関する説明)における説明の在り方について
(1) 判断対象の本質を捉えた説明の重要性
(2) 当該事案の争点(判断事項)に沿った柔軟な説明
(3) 裁判員に対する説明の時期・方法
(4) 協働事項(当てはめ)との関係を見据えた適切な説明
3 協働事項(事実の認定,法令の適用及び刑の量定)における裁判官の関わり方について
(1) 協働事項一般に関する裁判官の関わり方
(2) 判断作用(事実の認定,法令の適用及び刑の量定)ごとの裁判官の関わり方
(3) 小括
4 今後の課題
第2 間接事実からの総合判断について
1 問題状況
2 間接事実からの総合判断における裁判官と裁判員の協働の在り方
(1) 間接事実総合類型の判断枠組みと評議の進行
(2) 裁判官が果たすべき役割
3 個々の間接事実の推認力についての評議の在り方
(1) 間接事実総合類型の判断構造等の共有
(2) 個々の間接事実の推認力を共有することの意義
(3) 間接事実の推認力を議論すべき箇所
(4) 間接事実の推認力の評議の在り方
(5) 被告人の虚偽供述や黙秘の扱い
4 間接事実からの総合判断の評議の在り方
(1) 間接事実からの総合判断の難しさ
(2) 個々の間接事実の推認力の評価を総合評価につなげる方策
(3) 合理的な疑いと合理的でない(抽象的な)疑いとの違い
(4) 間接事実からの総合判断の具体的手法
(5) 判決書の記載
(6) 裁判員への説明案
5 多数の間接事実が主張されている複雑な事案の評議について
(別紙1)間接事実を総合して行う事実認定の例
(別紙2)裁判員への説明案の例
模擬事例T
第3 正当防衛の成否の判断について
1 問題状況
2 正当防衛の成否の判断における裁判官と裁判員の協働の在り方
(1) 正当防衛類型における争点と評議の進行
(2) 裁判官が果たすべき役割
3 刑法36条の基本的な趣旨についての説明の在り方
(1) 説明の必要性
(2) 説明の内容や方法等
4 前提事実に関する評議において事実を認定していく順序
(1) 問題状況と検討
(2) 殺意の有無と正当防衛の成否が争われた場合の事実認定の順序等
5 正当防衛の成否の判断における評議の基本的な枠組み
(1) 難解概念司法研究における提言
(2) ヒアリング等からみた実情と検討
6 急迫不正の侵害(正当防衛状況)に関する評議@―急迫性に関する基本的な評議の在り方
(1) 説明の在り方
(2) 協働の在り方
7 急迫不正の侵害(正当防衛状況)に関する評議A―対抗行為に先行する事情を考慮すべき事案における評議の在り方
(1) 侵害を予期した上で対抗行為に及んだ事案に関する評議の在り方
(2) 自招侵害が問題となる事案に関する評議の在り方
(3) 狭義のけんか闘争が問題となる事案に関する評議の在り方
(4) 対抗行為に先行する事情を考慮すべき事案を通じた協働について
8 防衛行為性に関する評議@―防衛の意思が問題となる事案における評議の在り方
(1) 説明の在り方
(2) 協働の在り方
9 防衛行為性に関する評議A―防衛行為の相当性が問題となる事案における評議の在り方
(1) 説明の在り方
(2) 協働の在り方
模擬事例U
第4 責任能力の判断について
1 問題状況
2 責任能力の判断における裁判官と裁判員の協働の在り方
(1) 責任能力の判断の難しさの原因
(2) 裁判官が果たすべき役割
3 責任主義についての説明の在り方
(1) 説明の必要性
(2) 説明の内容や方法
(3) 説明の時期
4 責任能力が問題となる事案における基本的な判断枠組み
(1) 難解概念司法研究における提言
(2) ヒアリング等からみた実情と検討
(3) 具体的なイメージを共有するための工夫
5 裁判官と裁判員が実質的に協働するための前提と評議の在り方
(1) 責任能力に関する判断の順序について
(2) 精神鑑定の位置付けに関する説明
(3) 精神鑑定の現状と的確で分かりやすい鑑定報告を得るための方策
(4) 鑑定の信用性判断に関する評議の在り方
(5) 責任能力の有無・程度に関する評議の在り方
(別紙)心神喪失・心神耗弱についての説明案
模擬事例V
第5 量刑判断について
1 問題状況
2 量刑判断における裁判官と裁判員の協働の在り方
(1) 量刑評議の在り方
(2) 裁判官が果たすべき役割
3 個々の量刑事情の評価が難しい場面について
(1) ヒアリング等からみた問題状況
(2) 犯行態様の残虐性
(3) 犯行前後の事情
(4) 精神障害の犯行に対する影響
(5) 被害者に関する事情
(6) 前科
4 刑の数量化のプロセスの困難性について
(1) ヒアリング等からみた問題状況
(2) 刑の数量化のための相対評価の在り方
(3) 量刑傾向の把握が難しい場合
模擬事例W

高等裁判所刑事裁判速報集(平成30年)
法務省大臣官房司法法制部編 ISBN 978-4-86684-034-5
書籍コード 31-20 A5判 502頁 定価 7,750円(本体 7,045)
 本書は,全国の高等検察庁において作成した「高等裁判所刑事裁判速報」に掲載された裁判例のうち平成30年分を,各高等裁判所ごとに,その速報番号にしたがって収録したものであり,昭和56年度版から継続的に刊行されているものである。この速報集は,その編集方針上,類書とは収録重点を異にした特色ある裁判例集として,検察内部のみならず,部外の法曹においても頻繁に利用されてきたものであって,裁判月日別索引も掲げられ,利用価値の高い資料となっている。


2019年12月23日発行

養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究
司法研修所編(司法研究報告書第70輯第2号) ISBN 978-4-86684-031-4
書籍コード 31-19 A4判 98頁 定価 2,200円(本体 2,000)
 平成15年,養育費及び婚姻費用の算定について,東京及び大阪の高等裁判所,地方裁判所及び家庭裁判所に所属する裁判官を研究員とし,東京家庭裁判所及び大阪家庭裁判所の家庭裁判所調査官をオブザーバーとした三代川俊一郎ほか「簡易迅速な養育費等の算定を目指して−養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案」(判例タイムズ1111号285頁,1114号3頁)が発表された(この提案による算定方式及び算定表を併せて「標準算定方式・算定表」といい,算定方式又は算定表のみを指すときは「標準算定方式」又は「標準算定表」という。)。この提案は,簡易迅速に,合理的な養育費及び婚姻費用を算定するもので,当事者等への予測可能性が高く,公平にも適うものであったため,瞬く間に家裁実務等に広まり,完全に定着している。もっとも,その提案がされてから15年余りが経過したこともあり,時の経過や社会実態の変化等を理由として,その内容に改良する点がないかを検討する必要が生じている。
 そこで,司法研究員らは,本報告書において,検討の上,改良した算定方式・算定表である「改定標準算定方式・算定表(令和元年版)」(以下,単に「改定標準算定方式・算定表」といい,算定方式又は算定表のみを指すときは「改定標準算定方式」又は「改定標準算定表」という。)を提案することとし,併せて,民法の定める成年年齢を20歳から18歳に引き下げることなどを内容とする「民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)」(以下「改正法」という。)の成立・施行の影響を検討することとした。
 これらの検討の前提となった実務の運用については,司法研究員らの実務経験に基づくもののほか,東京家庭裁判所及び大阪家庭裁判所における家事事件及び人事訴訟事件担当裁判官及び職員からの実情聴取の結果を参考にした。

(本書「はしがき」より)

目 次 抜 粋

平成30年度司法研究概要
第1 はじめに
1 養育費,婚姻費用の算定の実務の現状
2 標準算定方式・算定表の検証の必要性
第2 標準算定方式・算定表についての具体的な検証
1 算定方法の基本的な枠組み
(1) はじめに
(2) 標準算定方式・算定表における養育費等の算定方法の基本的な枠組み
ア 養育費等の意義
イ 標準算定方式・算定表の提案以前の家裁実務における養育費等の算定方法
ウ 標準算定方式・算定表における養育費等の算定方法及びその評価
エ 本研究における養育費等の算定方法及び具体的な検証課題
2 基礎収入
(1) 給与所得者
ア 標準算定方式・算定表における基礎収入の認定
イ 公租公課
ウ 職業費
エ 特別経費
オ 本研究における基礎収入割合
(2) 自営業者
ア はじめに(総収入の認定)
イ 標準算定方式・算定表における基礎収入の認定
ウ 本研究における基礎収入の認定
3 生活費指数
(1) 標準算定方式・算定表における生活費指数の算出の基本的な枠組み
(2) 子の年齢区分の定め方
ア 標準算定方式・算定表における扱い
イ 本研究における基本的な考え方及び結論
(3) 生活保護基準の用い方の詳細
ア 標準算定方式・算定表における扱い
イ 本研究における基本的な考え方
(4) 本研究における結論
ア 最低生活費
イ 学校教育費
ウ 算出結果
第3 義務者が低所得の場合
1 標準算定方式・算定表における扱い
2 本研究における結論
第4 改定標準算定方式に基づく改定標準算定表の提案
第5 成年年齢引下げと養育費の支払義務の終期等
1 問題の所在
2 改正法と養育費等との関係
(1) 成年年齢引下げの理由と審議の状況
(2) 近年の進学率の状況
(3) 改正法と養育費との関係についての検討
3 各論点に対する検討及び結論
(1) 既に養育費の支払義務の終期として「成年」に達する日(又はその日の属する月)までなどと定められた協議書,家事調停調書及び和解調書等における「成年」の意義(@)
(2) 当事者間の協議,家事調停,和解,家事審判及び離婚判決において,既に20歳に達する日(又はその日の属する月)までなどと定められた養育費の終期が,改正法の成立又は施行によって,養育費審判における変更事由に該当するとして,変更されるべきか(A)
(3) 改正法の成立又は施行後,養育費の支払義務の終期をどのように判断すべきか(B)
ア 監護親の成年年齢に達した未成熟子の養育費等の支払請求の可否
イ 改正法の成立又は施行後における養育費の支払義務の終期
(4) 婚姻費用についての影響(C)
第6 結びにかえて
別紙 改定標準算定表(令和元年版)
(表1)養育費・子1人表(子0〜14歳)
(表2)養育費・子1人表(子15歳以上)
(表3)養育費・子2人表(第1子及び第2子0〜14歳)
(表4)養育費・子2人表(第1子15歳以上,第2子0〜14歳)
(表5)養育費・子2人表(第1子及び第2子15歳以上)
(表6)養育費・子3人表(第1子,第2子及び第3子0〜14歳)
(表7)養育費・子3人表(第1子15歳以上,第2子及び第3子0〜14歳)
(表8)養育費・子3人表(第1子及び第2子15歳以上,第3子0〜14歳)
(表9)養育費・子3人表(第1子,第2子及び第3子15歳以上)
(表10)婚姻費用・夫婦のみの表
(表11)婚姻費用・子1人表(子0〜14歳)
(表12)婚姻費用・子1人表(子15歳以上)
(表13)婚姻費用・子2人表(第1子及び第2子0〜14歳)
(表14)婚姻費用・子2人表(第1子15歳以上,第2子0〜14歳)
(表15)婚姻費用・子2人表(第1子及び第2子15歳以上)
(表16)婚姻費用・子3人表(第1子,第2子及び第3子0〜14歳)
(表17)婚姻費用・子3人表(第1子15歳以上,第2子及び第3子0〜14歳)
(表18)婚姻費用・子3人表(第1子及び第2子15歳以上,第3子0〜14歳)
(表19)婚姻費用・子3人表(第1子,第2子及び第3子15歳以上)